会社の規模にかかわらず、問題社員というのはどこの会社にもいます。
下記の事項に該当すると、問題が既に顕在化している可能性が高い。
- 度重なる無断欠勤や遅刻
- パワハラ・セクハラ・モラハラ
- 残業代を見込んだ必要のない時間外労働
- 他の社員との度重なるトラブルや嫌がらせ
職務怠慢(サボり)となると、証明は非常に難しい。
十分な証拠の確保を怠った状態で、安易に解雇処分を下せば、解雇権の濫用として、無効と判断される可能性が高いです。
そういった怠慢社員を放置することによって、会社全体に悪影響を及ぼす可能性に。
他の従業員が退職したり、パフォーマンスを低下させるなどの職場環境の悪化や効率の低下を誘発させることにも繋がります。
ここでは、職務怠慢の社員を合法的、かつ労使双方で納得したうえで解雇し、会社全体の規律意識やモラール(士気)を上げるための方策について解説します。
- 不当解雇にならなかった判例
- サボる社員の解雇は可能か?
- 解雇予告について
執筆/監修者:山内 和也
2023年3月23日
目次
職務怠慢社員の解雇は可能?
法律に則ってクリアできれば可能です。
職務怠慢は労働契約の債務不履行にあたり、当該社員を解雇することに支障はないと考える経営者も多いです。
解雇は労働者にとって、生活上の脅威であり、極めて深刻な影響を与える。
そこで、労働基準法や労働契約法などの労働関連の法令により、解雇に関する規制が置かれ、労働者の保護が明記されています。
職務怠慢を理由に社員を解雇することは不可能ではありませんが、その根拠について、明確に指摘できない状態であれば、裁判で「無効」と判断される可能性があります。
労働契約上の債務不履行について
使用者の指揮命令下で包括的に労務を提供し、その対価として使用者が賃金を支払う関係を基礎とする契約のこと
労働契約法では、労働契約が何かという定義規定は置かれていませんが、労働契約法6条では、
「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」
として、労働契約が労働の対価として賃金を支払う契約であることを定めています。
また、労働契約は、書面で契約しない諾成契約(だくせいけいやく)ですので、口頭による合意でも成立します。
しかし、労働契約法4条2項では、労働条件に関する争いを防止するために、書面で交わされることが求められます。
そのなかで、労働契約上の債務不履行については、労働契約法16条に
「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして無効とする」
と定義されています。
使用者側(会社側)が、労働という「債務」を履行している職員や従業員を、単なる好き嫌いという理由で懲戒処分や退職させることを禁じる意味も含まれています。
サボる社員を簡単に解雇できない?
大前提として、仕事ができないからなど、能力不足でクビにすることはできません。
与えられた仕事も十分こなすことができない従業員をクビにしたくなる使用者の気持ちも理解できます。
残念ながらそれだけでは正当な解雇の理由とはならないです。
- 勤務態度が悪い
- 解雇できない理由候補
- 度重なる無断欠勤や遅刻
- 上司に反抗的な態度を取った
- 会議で自分本位の意見を出した
明らかに業務態度が社会通念上、度を超えてないと解雇の理由とはならないです。
勤務態度が悪いとして、処分したり解雇するには、まずは使用者側(会社側)が、当該社員を指導し、改善の努力を行なうなどの努力が必要になります。
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就業規則の解雇事由の定めについて
解雇とは、労働者側の意思に関係なく、使用者(会社側)が一方的に雇用関係を解消することです。
労働者にしてみれば、どんな理由であっても、簡単に納得できることではなく、労使間で争いが起こることもしばしば。
※権濫用法理については後述します
就業規則の絶対的必要記載事項として解雇の事由を記載し、労働者と使用者双方が解雇の正当性の有無を確認できる環境を作ること。
解雇に関するトラブルをできる限り防ぐ環境作りを求めています。
懲戒解雇における権利濫用法理について
逸脱すれば、権利濫用として、解雇は無効となります。
解雇というのは、労働者にとっては、突然、生活の糧を失うという極めて重大であり、生命権や生存権を侵害する恐れもあります。
使用者側の恣意的(しいてき)な判断のみに任せるのではなく、労働関連の法令によって設けられた制限。
その前提で、懲戒解雇処分を科すということは、労働者の重大な企業秩序違反に対する罰です。
会社側が金銭面や信用面において多大な損失を被った場合にのみ限られるものです。
サボる社員の職務怠慢は普通解雇・懲戒解雇どっち?
前述した理由によって、ここで例にとった職務怠慢に関しては、転職にも不利になり得る懲戒解雇は重すぎるという判断になります。
普通解雇という処分に至る可能性が高い。
- 解雇理由として挙げられた事実
- その事実が解雇理由に該当するか
以上ポイントです。
- 当該社員の行為が解雇に値するものか
- 当該社員の勤続年数や生活状況、転職の可能性の有無
- 社内における同様のケースの処分状況と比較してバランスが取れているか
以上が重要視されます。
職務怠慢社員を解雇するには
労働基準法89条3号により、解雇の事由については、就業規則に記載しなければならないと定められています。
当該社員の職務怠慢そのものが解雇の事由として定められていなくとも、一般的な職務怠慢行為を解雇事由として掲げ、以下の包括条項を記載しておく必要があります。
解雇事由のなかに「その他前各号に掲げる事由に準じる重大な事由」といった解雇事由
また、職務怠慢の社員を懲戒解雇する場合には、労働基準法89条9号によって、懲戒事由と解雇という処分が下される内容を就業規則に明記しなければなりません。
問題社員を解雇する場合も「解雇予告」は必要か?
普通解雇の合理的な相当性があり、普通解雇できるだけの事由があるという場合であっても、法律や就業規則に規定された手続きを踏む必要があります。
具体的には、普通解雇を行なう30日前までに解雇予告をすること、解雇理由証明書を交付することが必要です。
※即日解雇の場合には30日相当分の解雇予告手当を支払うこと
また、これ以外にも就業規則の規定に従い必要な手続きを行ない、退職金も支給する必要があります。
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退職勧奨(たいしょくかんしょう)も視野に
職務怠慢に対しては、当該社員の問題行動の改善を目指すための指導が必要になります。
職務怠慢を理由とした解雇というものは前述したように困難であることから、まずは指導による改善を目指すことになります。
こうした指導の経過も書面化して残しておきましょう。
こうすることの意義は、過去の経過を検証することで問題性を把握でき、指導にも有益な効果を及ぼします。
指導する際、就業規則のどこに違反するか指摘し、懲戒処分の対象となりうることを告げておくことも、会社側にとって有利に作用します。
指導を有効なものとするためにも、服務規程の充実も有益です。
将来、問題社員を解雇する場合や、それに伴うトラブルも見据えて、解雇事由を明確にすることも必要。
解雇した場合、当該社員から解雇の有効性が裁判で争われることもありうるため、確実に辞めてもらうためには、退職勧奨(たいしょくかんしょう)します。
そのうえで自主退職を促し、退職届けを出してもらうのも一つの手です。
いったん退職届を会社に出し、会社がこれを受理すれば、確定的に退職の効果が発生し、後々、トラブルに発展せずに済みます。
当該社員本人が退職に同意したことをより確実にするため、解決金を渡し領収書を徴収。
職務怠慢を防ぐための服務規律について
労働者は就業時間中、使用者の指揮命令下で職務に専念する義務のこと。
簡単に言うと仕事中は業務に集中しなさいという義務。
この義務は、労使間で労働契約を締結した時点で発生します。
どの程度、職務に専念すべきなのか不明確だと、さまざまなトラブルを招く恐れがあります。
会社としては、職務専念義務の範囲を明確にし、労働者に周知しておくことが重要。
仕事中は業務に集中し、私的行為は控える必要があるということを周知徹底する必要があります。
労働契約では、労働者は職務専念義務を負い、会社は賃金支払義務を負う。
そのため、労働者が就業時間中に、業務と関係のない行為をしていれば職務専念義務違反ということになります。
公務員の場合、国家公務員法や地方公務員法によって職務専念義務が明文化されています。
民間企業の社員の場合、職務専念義務が明文化された法律はありません。
ただ、職務専念義務は労働契約締結により当然に存在するのもあります。
つまり、わざわざ明文化しなくても、労働契約の締結と同時に職務専念義務も発生するということ。
ただし、就業規則の懲戒規定で定められていることが前提です。
解雇前に指導
職務怠慢の社員が、譴責処分(けんせきしょぶん)などの懲戒処分を下し、会社の姿勢を示すこと。
後々の問題行動の改善にも役立ちます。
仮に解雇となった場合、従前に懲戒処分を受けたにも関わらず改善しなかったということで、裁判になったとしても有利な状態に。
こういったことを、簡単に記録しておくことで、その後の指導にも活かせるメリットも。
「問題社員に指導しても直るわけがない」とさじを投げることなく、問題社員だからこそ指導する必要があります。
これまでに会社側が適切な指導をしてこなかったから問題社員が生まれた可能性も考慮すべきことも視野に入れつつ、まずは指導すべきです。
指導からの解雇が有利
必ずしもさまざまな指導を行なった結果、改善が見られ、問題行動が修まるとはかぎりません。
改善することも、その気配もなかったとしてもと主張できます。
解雇する前の懲戒処分
懲戒処分の基準としてまず守らなければならないのが労働基準法。
この法律は、会社が従業員を雇用するにあたり守らなければならない義務が定められています。
そして次に守らなければならないのは、社内であらかじめ定めている就業規則。
就業規則に定めていない懲戒処分を、会社側の裁量で自由に行なうことはできません。
就業規則は、会社側にとっても社員にとっても、懲戒処分を行なうにあたって守らなければならない基準です。
問題社員が行なった行為に対し、会社側が取れる懲戒処分には、軽いものから順に次の項目があります。
- 戒告
- 譴責
- 減給
- 懲戒解雇
- 停職(出勤停止)
以上です。
懲戒処分は何のためにあるのでしょう?
悪いことをした従業員を懲らしめるためでしょうか?
懲戒処分の本当の目的はそれだけではありません。
そして企業が収益をあげるためには、従業員が一丸となって働くことが必要。
会社側は社員に対して「事業を成功させるための行動をしてほしい」と願っています。
裏を返せば「事業を成功させるために妨げとなるような行動は慎むべき」ということ。
良くない行動をしたら、懲戒処分にしますという就業規則は、次の会社側の従業員に対する願いでもあるのです。
収益を上げるため、このような行動はしてほしくない
つまり、懲戒処分の本当の目的は従業員を罰することではなく、企業のためにも従業員のためにもならない職務怠慢や社内トラブルなどを予防することです。
解雇する前に自主退職を検討
職務怠慢の社員は、表立って就業規則に違反している可能性が低いので懲戒解雇は困難です。
解雇をするのであれば、サボっている証拠を集めて、本人に反省を促し、それでも改善が見られなければ普通解雇が検討されることに。
その際、解雇の適法性(てきほうせい)の判断は厳しい。
労使間トラブル防止の観点から、一般的には退職勧奨(たいしょくかんしょう)によって従業員に自主退職を促すことが望ましいです。
ただ、退職勧奨(たいしょくかんしょう)もその態度や説得方法によっては違法となり、退職が無効となるケースも。
会社側に損害賠償責任が生じる可能性もあるので、その方法や態様、頻度などに留意し、慎重に行なう必要があります。
解雇手当の支払いについて
労働基準法20条では、企業(使用者)が労働者を解雇するには、正当な理由があっても、少なくとも30日以上前から解雇予告をしなければならないと定められています。
もし解雇予告を行なわずに解雇を行なう場合は、解雇までの残日数に応じた金額、つまり解雇予告手当を支給します。
当然ながら、解雇予告手当を支給する必要があり、かつ、トラブルに発展させないためにも解決金や退職金の全額支払いもしなくてはいけません。
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【判例】サボる社員の解雇の有効性
職務怠慢による解雇の有効性が問われた裁判例として、東京海上火災保険事件(東京地判平成12年7月28日)があります。
通勤途上の負傷や私傷病等を理由に、平成4年11月以降4回の長期欠勤(4ヶ月間、5ヶ月間、1年間、6ヶ月間)をはじめ約5年5ヶ月間のうち約2年4ヶ月間を欠勤し、また最後の長期欠勤の前2年間の出社日数のうち約4割が遅刻であったなど遅刻を常習的に繰り返していた元社員に対し、会社側は、元社員の所定労働日における大半の欠務、甚だしく多い遅刻・離席、また業務意欲・知識・能力の著しい低さが業務に多大の支障を与えていたものであり、労働協約および就業規則に規定される普通解雇事由「労働能率が甚だしく低く、会社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当するとして解雇。
判決は会社側の勝訴
普通解雇事由の存否について、本判決は、元社員には4回の長期欠勤を含め傷病欠勤が非常に多く、また出勤しても遅刻や離席が多い。
出勤時の勤務実績についても、担当作業を指示通りに遂行できず他の従業員が肩代わりをしたり、後始末のため時間を割くなど劣悪なものである。
元社員の労働能率は甚だしく低く、業務に支障を与えたことが認められるとして、普通解雇事由に該当するとしました。
そのうえで、解雇の有効性について、本判決は、勤務実績や態度は上司らの指導によっても変わらず、労働意欲の向上がみられなかったものである。
この判決のポイントは、長期かつ複数回の欠勤の事実や勤務実績も劣悪であったことに加え、遅刻が多いことも理由に、解雇の有効性を認めました。
遅刻が多いことは、解雇するにあたり客観的な合理的な理由を基礎づけるひとつの事情になり得るということがわかります。
証拠集めの無料相談について
上記の判例に限らず、例えば、外回りの営業マンが帰社時間まで、喫茶店やパチンコ店などで時間潰ししている例など。
証拠があれば、問題社員に対する注意や指導につながり、改善の兆しがなければ、さまざまな懲戒処分や退職勧奨(たいしょくかんしょう)などの処分を検討することが可能となります。
【まとめ】問題社員を解雇する
問題社員を解雇する場合は、しっかりした知識が必須になります。
知識のないまま急に解雇してしまうと、無効になり時間と無駄なお金の出費が発生するリスクがあります。
解雇の種類、方法のなかでも懲戒解雇、即日解雇がおすすめ。
社員、従業員が不正をして解雇したい場合は、決定的な証拠が必要になってきます。
証拠集めに関しては、実績豊富な探偵に依頼することをおすすめします。
不当解雇リスクを回避できる弁護士も無償でご紹介可能。
解雇が無効になり、多額の支払いにならないために、ご協力させていただければと思います。
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