- 「どうやらうちの社員が競合他社に引き抜きされているらしい…」
- 「どうすればいいのかわからない…」
- 「引き抜き業者を特定したい!」
- 「それって違法じゃないの?」
- 「採用の費用を捻出したのに」
せっかく育てた社員を引き抜かれた場合、技術やノウハウが流出するリスクがあります。上記のお悩みがある場合は、続きを読んでいただければと思います。
当サイトでは、引き抜きのおそれのある業者、競合他社の特定他、以下の項目も網羅的にお伝えしています。
- 引き抜き違法性の判断
- 競業避止義務について
- 不法行為となった過去の判例
- 引き抜きを防ぐ対応方法方法
- 引き抜きの業者(取引先)の特定方法
判例に関しては、違法性が肯定されたケースと否定されたケースをご紹介しています。
競合他社、取引先業者の引き抜き特定と証拠集めでお困りでしたら、当記事を参考にしていただければと思います。
執筆/監修者:山内 和也
2023年2月27日
目次
違法と判断されない引き抜き?
引き抜き被害を受けた企業は、損害を受けてしまうので食い止めたいところです。
しかし、ケースによっては「違法」とならない場合があります。
違法と判断されるケース、されないケースを詳細に徹底解説いたします。
違法と判断される従業員の引き抜き
違法、不法行為の判断は、以下の要因やケースを考慮するべきと判示されています。
要因 | 内容 |
---|---|
引き抜かれた従業員の数 | 同部署内の従業員の過半数の引き抜き |
引き抜かれた従業員の地位 | 引き抜き相手が部長など重要な役職 |
勧誘の仕方(態様) | 虚偽・金銭の授受など |
会社に及ぼす影響 | 引き抜いたことによって会社に与えた損害の大きさ |
引き抜きを、なんでもかんでも違法としてしまうと、個人や企業の経済活動が鈍くなってしまうので上記の内容が重要になってきます。
違法と判断されない従業員の引き抜き
引き抜きやヘッドハンティングは、日常的に行なわれているのが現状です。
自由競争、職業選択の自由の観点から、引き抜きに応じても違法にならない場合があります。
具体的に次の項目があげられます。
- 自発的ではない悪質な勧誘
- 社会的相当性を逸脱している
- 悪意や計画性のある引き抜き
- 誠実義務・競業避止義務に著しく反している
違法とならず、損害賠償責任が認められないケースをご紹介いたします。
会社の労働条件や業務内容に不満を持っていたところに転職の話を持ちかけた場合(ジャクパコーポレーションほか事件 大阪地判平12.9.22 労判794-37。U社ほか事件 東京地判平26.3.5 労経速2212-3(派遣会社の管理社員による所属の派遣労働者に対する引抜きの事例))が、損害賠償責任の認められない場合に当たる。
【職業選択の自由】労働者
仕事の内容、職場を選ぶのは個人の自由とし、日本国憲法(第21or2条1項)で保障されています。
「職業選択の自由」を念頭に置いていただき、読み進めていただければと思います。
個人事業主引き抜きの違法について
個人事業主も競業避止義務次第で、違法性を判断しています。
法律ではなく会社と従業員の義務なので、会社の規約か特約締結が争点になり得る。
例えば、在職中の転職、退職後2年以内の競合他社への転職を禁じている企業もあります。
【引き抜き】競業避止義務について
会社と競合している企業への転職、在職中に会社を設立するなどの行為を禁止する義務のことです。
違反した場合は、損害賠償請求されたり、退職金を制限されたりする可能性が高い。
回避するために、有効性のある競業避止義務の社内規定をおすすめします。
参考資料:競業避止義務契約の有効性について
競業避止義務は絶対的な義務ではない
「競業避止義務は強制義務とはいえないのはなぜ?」っと疑問に思われた方へご説明いたします。
労働契約法3条4項に以下のような原則があります。
“当事者が契約を遵守すべきことは、契約の一般原則であり、「権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実におこなわなければならない」旨を規定した民法第1条第2項は労働契約についても適用されるものであって、労働契約が遵守されることは、個別労働関係紛争を防止するために重要です。”
引用元:労働契約法について
原則がありますが、憲法で定めている職業選択の自由の保障の観点から、誠実義務、競業避止義務は絶対的な義務ではないと言えます。
在職中の引き抜き行為
憲法で定める職業選択の自由が保障されていますので、軽い転職の誘い程度では不法行為とは言えない可能性があります。
参考として、在職中の引き抜きのケースを詳しく説明いたします。
【1.在職中】従業員による引き抜き行為
従業員が同僚を引き抜いて、同業他社へ転職。
貴社と個人間(従業員)の特約や社内・就業規定が決まっている場合は、損害賠償請求や懲戒処分できる可能性があります。
悪質な場合も同様。
【2.在職中】取締役・役員による引き抜き行為
会社法第355条に次のように定められています。
”取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。”
引用元:会社法
取締役が計画的、内密に従業員を引き抜き、新しい会社を設立する行為は「不法行為」に該当する可能性があります。
場合によっては、引き抜きの特定をし、損害賠償請求をすることができます。
判例に取り上げられるリアルゲート事件。
参考:転職の勧誘・引抜きの法的責任
退職後の引き抜き行為
退職後の引き抜きは、違法になる可能性が低くなります。
理由として、基本的に労働契約中の忠実義務、誠実義務がなくなることがあげられます。
しかし、引き抜き行為の態様次第で、違法となるケースがありますので注意が必要です。
退職後の引き抜き行為の詳しい内容をみてみましょう。
【1.退職後】従業員による引き抜き行為
引き抜きは違法になる可能性は低いです。
貴社の機密情報やノウハウ等が漏洩し、損害を受けた場合は、「不法行為」に該当します。
例えば、退職後に競業避止義務の特約を結んでいたのに、競合他社へ転職してしまったなど。
特定には、専門的な調査が必要になりますので、探偵に依頼することをおすすめします。
【2.退職後】取締役・役員による抜き行為
取締役も退職後の引き抜きは違法とならないケースが多いです。
逆に違法になるケースは次の項目に当てはまる場合です。
- 競業避止義務の特約を破る
- 在職中に計画的に大勢の従業員を引き抜く
証拠があれば損害賠償請求できる可能性があります。
【3.退職後】取引先・協力会社による引き抜き
優秀な人材を効率よく確保するために、取引先や協力会社からの引き抜きは頻繁に行なわれています。
しかし、全てが不法行為に該当するわけではないので、注意が必要です。不法行為となり得る要素は、以下の2通りが考えられます。
- 取引先が社員を利用して不当に引き抜きを行なう
- 取引先と自社の部長クラスが共謀、計画して引き抜きを行なう
損害賠償責任判例で有名なラクソン事件(東京地判平3.2.25 労判588-74)が良い例です。
従業員の引き抜き行為につき、引き抜きをした競業企業と元営業本部長に対する不法行為による損害賠償請求が認容された事例。
引用元:モデル裁判例|ラクソン事件
引き抜きの原因
必ず因果関係がありますので、原因を知ることで対策を講じることができるメリットも。
原因を突き止めることができれば、引き抜きを防ぐことができますので参考にしていただければと思います。
優秀な人材の確保
優秀な人材を獲得するために費用、時間がかかってしまいます。効率よく採用したい意図が、引き抜きに発展します。
例)
- 即戦力となる従業員を効率よく獲得できるメリット
- 採用や従業員教育の費用を大幅に削減できるメリット
在職中、退職後の特約を交わしておくことをおすすめします。
経験やノウハウの確保
起業したての頃は、未経験の人材を雇うよりも、スキルや経験ある人材が重要視されます。引き抜きは簡単に補うことができるので、頻繁に行なわれています。
機密漏洩や競業避止義務の特約をかわすことをおすすめします
【対策】引き抜き行為
誠実義務違反、不法行為に該当した場合の対策をお伝えいたします。
損害賠償請求
しっかり証拠を集め立証できれば、損害賠償請求ができます。
証拠には以下の最低限の内容が必要です。
- 引き抜きをしている競合他社や従業員を突き止める
- 引き抜きによる損害の証拠を集める
ハードルが少し高いのでプロの探偵に依頼することをおすすめします。
転職の差し止め
不正競争防止法による差止請求が可能です。
職業選択の自由によって効果は期待できませんが、転職の差し止めも対応策のうちの1つです。
実際に転職の差し止めが認められてたケースがあります。
退職金の減額・不支給・返還請求
従業員が退職後、同業他社へ転職していた場合、退職金の減額や返還請求等をできるケースがあります。
退職金返還(名古屋高等裁判所 集民 第121号225頁 昭和52年8月9日)
引用元:裁判例結果詳細|退職金返還
懲戒解雇
部長クラスが同業他社に転職する際に、従業員7名の引き抜きを行なった事件がありました。
その際、金銭の支度金300万円の提示もあり、社会的相当性を欠く態様とした懲戒解雇の事例です。
福屋不動産販売事件(大阪地裁 令和2年8月6日)
参考:福屋不動産販売事件
社内に向けての対応
以下の対応をおすすめします。
- 在職、退職中における競業避止義務の特約を締結する
- 機密保持契約を締結する
- 社内規定を設ける
特約締結や社内規定があるにも関わらず、貴社の従業員に怪しい動きがある場合は、証拠が必要になります。
証拠集めに関しては、実績多数の探偵に依頼すると良い結果が得られます。
【対応方法】社員の引き抜き
【確認】事実関係および証拠
以下の内容の事実と証拠の確認をする。
- 社員からメールや録音等の証拠
- 取引先からメールや録音等の証拠
- 引き抜き等で会社に発生した損害の根拠
- 引き抜き禁止や競業避止義務、秘密保持義務を決めておく
- 入退社時の競業避止義務、秘密保持義務の合意をしてあるか
【合意書】引き抜き禁止の取り交わし
ここまで何度かお伝えしておりますが、再度確認お願いします。
職業の選択の自由の壁をクリアするために、競業避止義務の締結を各従業員としておく。
その際に、期間や業種などを決めておくことがポイントです。
【警告】引き抜き行為を計画している社員
探偵などに依頼し、証拠が集め終わった後の話になります。
次のステップで警告をします。
- 文章で警告
- 内容証明で再度警告
- 損害賠償の内容証明で警告
効果が期待できない場合は、上記のステップを試していただければと思います。
【交渉】従業員・労働者
もし、従業員や労働者と揉めてしまった場合は、法的措置に出る前に、交渉や和解の打診を考える。
裁判になってしまうと、大切な時間やお金が奪われてしまいますので、できることなら示談の方向で進めればお互いにとって良いはずです。
【法的措置】裁判対応
もし、交渉決裂し、裁判を起こされてしまった場合は準備を始めましょう。
その際は、探偵に証拠集めを依頼し、弁護に関しては弁護士に依頼。
個人で全て行なうのは非常に難しいので、各専門家にお任せすることをおすすめします。
引き抜きの不法行為が否定された判例
本記事では、過去違法となった判例をお伝えいたしました。
ここからは、不法行為とならなかった判例2件をご紹介いたします。
最後に損害賠償違反になった判例を1件ご紹介いたします。
フリーラン事件(東京地判平6.11.25)
港ゼミナール事件(大阪地判平元.12.5)
学習塾で立場のある講師が退職後、近くで新しい学習塾を開設。
開設後、前塾から計画に賛同した講師5名を引き抜くといった事件です。
裁判で違法性はないとされた判例。
東京学習協力会事件(東京地判平2.4.17 労判581-70)
【注意点】損害賠償請求
大切な内容になりますので、重ねてお伝えいたします。
損害賠償請求を実行するには下記の注意点をご確認ください。
- 引き抜きを行なっている従業員、取引先業者等の特定
- 特約等の義務違反を行なっている実態の証拠
- 計画的悪質で社会的相当性を逸脱している
最低ここまでの調査と証拠が必要になります。
引き抜き不法行為のまとめ
引き抜きについて判例も交えお伝えしてきました。
違法性を「問えるケース」と「問えないケース」があり、特約を締結するなど対応が必須になります。
不法行為には以下を考慮する必要があります。
- 勧誘の仕方(態様) → 虚偽・金銭の授受など
- 引き抜かれた従業員の数 → 同部署内の従業員の過半数の引き抜き
- 引き抜かれた従業員の地位 → 引き抜き相手が部長など重要な役職
- 会社に及ぼす影響 → 引き抜いたことによって会社に与えた損害の大きさ
そのためには、言い逃れできない証拠の収集が必須となります。
証拠集めには悪質な引き抜きを行なう従業員、業者等の特定が必要です。
証拠集めと特定に強い探偵に依頼することで、解決への突破口が一気に広がりますのでぜひ!
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